
相続人の一人と連絡が取れない場合、不動産は売れる?不在者財産管理人と売却方法を解説
【はじめに】
親が亡くなって実家や土地を相続することになったとき、
「兄弟で話し合って売却しよう」と思っていたのに、
相続人の一人と何年も連絡を取っていないというケースがあります。
例えば、
・兄弟の一人がどこに住んでいるか分からない
・電話番号が変わって連絡できない
・海外へ行ったまま連絡がない
・戸籍上は相続人だけれど、一度も会ったことがない
といった状況です。
そこで気になるのが、
「ほかの相続人が全員売却に賛成していれば、その人を抜きにして売れないの?」
ということですよね。
今回は、相続人の一人と連絡が取れない場合に不動産を売却できるのか、
遺産分割や相続登記、売却までの流れを、私なりに分かりやすく整理していきます。

1.相続人を一人だけ無視して遺産分割はできない
相続人が複数いる場合、
・父の実家を長男が取得する
・預貯金を次男が取得する
など、誰が何を相続するかを話し合うのが遺産分割協議です。
この遺産分割協議は、
基本的に共同相続人全員が参加して合意する必要があります。
例えば相続人が、
長男
次男
長女
の3人だったとして、
長男と次男だけで、
「実家は売却して半分ずつ分けよう」と決めても、
長女を除外した遺産分割をそのまま成立させることはできません。
多数決では決められないというのがポイントです。
2.「連絡が取れない」と「行方不明」は同じではない
ここは非常に大切です。
例えば、
・電話に出てくれない
・LINEを無視されている
という状態と、
・住所も居所も分からず、長期間所在不明
という状態では意味が違います。
不在者財産管理人制度の対象となる「不在者」について、
裁判所は、従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない人と説明しています。
そのため、
「連絡しているけれど返事をくれない」だけでは、
すぐ不在者財産管理人の制度を使えるとは限りません。
まずは、
・本当に住所が分からないのか
・現在地を確認できないのか
を調査する必要があります。
3.最初にすることは「相続人を正確に確定する」
相続不動産を売却するとき、最初に必要なのが相続人の確定です。
例えば親が亡くなった場合、
・現在の戸籍
・除籍謄本
・改製原戸籍
などを取得して、出生から死亡までの身分関係を確認します。
すると、
「知らなかった前婚の子どもがいた」
「兄弟だと思っていた人数と法定相続人が違った」
ということが分かる場合もあります。
不動産売却の前に、
そもそも誰が相続人なのかを正確に確認することが大切です。
4.相続人の住所は戸籍の附票などから調べる
相続人が分かっても、
「今どこに住んでいるのか分からない」という場合があります。
その場合、戸籍の附票などを使って住所を確認できる可能性があります。
戸籍の附票には、
戸籍が作られてからの住所履歴などが記録されています。
そのため、
昔の住所しか知らないという場合でも、現在の住所へたどれることがあります。
まずは司法書士や弁護士などへ相談しながら、所在調査を行うことになります。
5.本当に行方不明なら「不在者財産管理人」という制度がある
住所や居所を調査しても所在が分からない。
こうした場合に検討するのが、不在者財産管理人です。
不在者財産管理人とは、
行方不明になっている人の財産を管理するために、家庭裁判所が選任する人です。
例えば、
父が死亡
↓
相続人は兄・弟・妹
↓
妹が長年行方不明
という場合、
兄や弟などが家庭裁判所へ不在者財産管理人の選任を申し立てることが考えられます。
6.不在者財産管理人を選任すればすぐ売却できる?
ここは注意が必要です。
不在者財産管理人の基本的な役割は、
不在者の財産を保存・管理することです。
そのため、不動産を売ることや遺産分割協議に参加することは、
通常の管理行為を超える場合があります。
その場合は、
家庭裁判所の「権限外行為許可」が必要です。
つまり、
不在者財産管理人選任
↓
家庭裁判所へ権限外行為許可申立て
↓
許可
↓
遺産分割・売却
という流れになることがあります。
7.誰が不在者財産管理人になる?
申立ての際に候補者を挙げることはできますが、
最終的に誰を選任するかは家庭裁判所が判断します。
場合によっては、
・弁護士
・司法書士
などの専門家が選任されることもあります。
不在者財産管理人は、他の相続人のために行動するのではありません。
あくまでも、
行方不明になっている本人の利益を守る立場です。
そのため、
「ほかの兄弟3人がこの分け方でいいと言っているから」だけで、
行方不明者に不利な遺産分割を自由に承諾できるわけではありません。
8.行方不明者の取り分をゼロにはできる?
例えば相続人3人で、法定相続分がそれぞれ3分の1だったとします。
行方不明者がいるから、
「その人には何も渡さず、残りの2人で分けよう」
という内容を不在者財産管理人が簡単に認められるとは考えにくいです。
不在者財産管理人は、不在者の財産を保護する立場だからです。
遺産分割内容について家庭裁判所の許可を受ける際にも、
不在者の利益がきちんと確保されているかが重要になります。
そのため、
不在者の法定相続分に相当する財産を確保する形などが検討されることがあります。
9.不在者財産管理人の申立てはどこの裁判所でする?
不在者財産管理人選任の申立先は、
不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所です。
例えば、行方不明になった相続人の最後の住所が大阪府内であれば、
大阪家庭裁判所の管轄を確認することになります。
大阪家庭裁判所も、
不在者財産管理人選任について専用の申立書、財産目録、相続関係図などの書式を公開しています。
10.費用はどれくらいかかる?
不在者財産管理人の申立てでは、
・収入印紙
・郵便料
などが必要になります。
さらに案件によっては、不在者財産管理人が業務を行うための費用を確保する目的で、
家庭裁判所から予納金を求められる場合があります。
また、不在者財産管理人から報酬請求があった場合には、
家庭裁判所の判断により、不在者の財産から報酬が支払われることがあります。
11.行方不明ではなく「連絡を無視している」場合は?
住所も分かっている。
本人が生きていることも分かっている。
でも、
・電話に出ない
・手紙に返事をしない
・遺産分割に参加してくれない
という場合は、不在者財産管理人とは違う問題です。
この場合は、遺産分割調停を検討することがあります。
相続人同士で話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所の調停手続きを利用できます。
つまり、
所在不明
→不在者財産管理人
所在は分かるが協議できない
→遺産分割調停など
と、状況によって対応が異なります。
12.遠方に住んでいるだけなら売却できる
「海外に住んでいる」
「北海道に住んでいて大阪まで来られない」
というだけなら、行方不明とは違います。
本人と連絡が取れて意思確認ができるなら、
必ずしも契約場所へ全員が集合しなければならないわけではありません。
委任状などを利用し、代理人を立てて手続きを進めるケースもあります。
大切なのは、
距離ではなく、本人の所在と意思が確認できるかです。
13.相続登記が済んでいない不動産はそのまま売れる?
親名義のままの不動産を相続した場合、
原則としてまず相続登記を行い、その後買主へ所有権移転登記を行います。
2024年4月1日から相続登記は義務化されており、
相続により不動産を取得したことを知った相続人は、
原則としてそのことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。
14.遺産分割がまとまらない場合の相続登記は?
相続登記義務化に伴い、遺産分割がすぐにまとまらない場合の制度として、
相続人申告登記も設けられています。
これは、相続登記の申請義務を簡易に履行するための仕組みです。
ただし、
相続人申告登記をしただけで不動産を自由に売却できるようになるわけではありません。
あくまで登記義務を履行するための制度です。
実際に売却するには、
遺産分割などで誰が不動産を取得するのか整理する必要があります。
15.2026年から「所有不動産記録証明制度」もスタート
2026年2月2日からは、
所有不動産記録証明制度が始まりました。
これは、特定の被相続人が登記名義人となっている不動産を、
登記官が一覧化して証明する制度です。
これまでは、
「亡くなった父がどこに土地を持っていたのか分からない」という場合、
一つずつ不動産を探す必要がありました。
現在はこの制度によって、相続不動産を把握しやすくなっています。
相続人の調査だけでなく、
何を相続しているのかを把握することも大切ですね。
16.共有名義にしてから行方不明になった場合は?
相続登記後、
・兄2分の1
・弟2分の1
などの共有状態になっており、その後弟と連絡が取れなくなるケースもあります。
共有不動産全体を売却する場合、基本的には共有者全員の関与が必要です。
兄が、
「自分が半分持っているから家全部を売ります」ということはできません。
ただし自分自身の共有持分だけを処分する問題は別です。
とはいえ共有持分だけでは利用しにくく、
一般の買主が購入しにくいため、価格が低くなる可能性があります。
17.買主を先に見つけてもいい?
相続人が一人行方不明の状態で、
「この家を3,000万円で買いたい人がいる」となることもあります。
しかし売却権限が整っていなければ、
そのまま通常の売買を完結させることはできません。
場合によっては、
・不在者財産管理人の選任
・権限外行為許可
などを前提として進めることになります。
また家庭裁判所へ売却許可を求める場合、
売却価格が不在者にとって不利益ではないかも重要です。
そのため査定書など、価格の妥当性を示す資料が必要になることもあります。
18.不動産会社だけでは解決できないケースもある
通常の不動産売却なら、
不動産会社へ査定
↓
売却活動
↓
契約
と進みます。
しかし相続人の所在が不明な場合は、
・戸籍調査
・所在調査
・家庭裁判所手続
・権限外行為許可
・相続登記
などが必要になることがあります。
この場合は、
・不動産会社
・司法書士
・弁護士
などが連携して進めることになります。
つまり、
「売れるかどうか」より先に「売れる状態にできるか」を確認する必要があります。
19.固定資産税や管理費はその間も発生する
相続人の問題が解決するまで、不動産の維持費がなくなるわけではありません。
例えば、
・固定資産税
・マンション管理費
・修繕積立金
・火災保険
・庭の草刈り
・建物管理費
などがかかります。
空き家を何年も放置すると、
建物自体が劣化して売却価格が下がる可能性もあります。
そのため、
「相続人と連絡が取れないから、とりあえず放置」ではなく、
早めに手続きを進める方がよいでしょう。
【まとめ】
相続人の一人と連絡が取れない場合、
残りの相続人だけで勝手に不動産を売却することは原則できません。
相続不動産の遺産分割には、共同相続人全員の関与が必要だからです。
ただし、
「連絡不能だから一生売れない」というわけでもありません。
まず戸籍などから相続人と住所を確認し、連絡を試みます。
それでも所在が分からず、本当に行方不明の状態であれば、
家庭裁判所へ不在者財産管理人の選任を申し立てる方法があります。
一方、
・住所は分かっているが返事をしない
・遺産分割に反対している
というケースでは、
不在者財産管理人ではなく、遺産分割調停など別の方法を検討する必要があります。
また、2024年からは相続登記が義務化され、2026年2月には所有不動産記録証明制度も始まりました。
相続不動産について「誰が相続人なのか」「何を相続しているのか」を
早めに整理する重要性はさらに高まっています。
相続人の一人と連絡が取れない不動産を売却するときは、
①相続人を調査する
②所在を確認する
③売却可能な権利状態に整える
④その後に売却する
という順番で考えることが大切です。
普通の不動産売却より手続きは複雑になりますが、制度を利用することで売却まで進められる可能性はあります。
相続した実家や土地を売りたいのに、一部の相続人と連絡が取れず困っている場合は、
長期間放置するのではなく、まず司法書士や弁護士、不動産会社などへ相談し、
現在の相続関係と不動産の状況を整理するところから始めましょう‼︎
※本記事は2026年9月時点で確認できる裁判所・法務省の公表情報をもとにした一般的な解説です。
不在者財産管理人の選任、遺産分割、権限外行為許可、相続登記、共有不動産の売却などは個別事情によって対応が異なります。具体的な案件については家庭裁判所、司法書士、弁護士等へご確認ください。
