
区分所有法が大幅改正|マンションの管理・修繕・建て替えはどう変わる?
【はじめに】
マンションを購入すると、自分の部屋だけでなく、
エントランス、廊下、エレベーター、外壁、屋上などを、他の所有者と一緒に管理していくことになります。
しかし、マンションの所有者が増えるほど、全員の意見をまとめることは簡単ではありません。
特に、建物の老朽化と所有者の高齢化が同時に進むと、
話し合いがまとまりにくくなり、必要な工事や管理が進まないことがあります。
そこで、古くなったマンションの管理や再生を進めやすくするため、
マンションに関係する法律が大きく見直されました。
この記事では、区分所有とは何か・今回の改正で何が変わったのか・
どのような影響があるのかを、できるだけ分かりやすく解説します。

1. 区分所有とは?
区分所有とは、一棟の建物を構造上・利用上独立した複数の部分に分け、それぞれを別の人が所有する仕組みです。
分譲マンションをイメージすると分かりやすいと思います。
マンションの101号室、102号室、201号室などは、それぞれ独立した住戸として所有できます。
このように、個人が単独で所有する部分を専有部分といいます。
一方で、マンションには一人だけで所有できない場所もあります。
代表的な共用部分には、次のようなものがあります。
* エントランス
* 共用廊下
* 階段
* エレベーター
* 屋上
* 外壁
* 建物の構造部分
* 駐輪場
これらは、原則として区分所有者全員で共有します。
2. 区分所有法とは?
区分所有法の正式名称は、「建物の区分所有等に関する法律」です。
分譲マンションなどの区分所有建物について、
専有部分と共用部分の関係、管理組合、管理規約、総会、修繕、建て替えなどの基本的なルールを定めています。
マンションでは、一つの建物を多くの所有者が共同で管理します。
そのため、一戸建てのように、一人の判断だけで外壁を交換したり、建物を解体したりすることはできません。
共用部分の修繕や管理規約の変更などは、区分所有者による総会で決議します。
◯ 管理組合とは?
分譲マンションを購入して区分所有者になると、
原則としてそのマンションの管理組合の構成員になります。
管理組合は、マンションの建物や敷地、共用部分を管理するための団体です。
管理組合の運営方法は、区分所有法だけでなく、
それぞれのマンションが定める管理規約にも基づいています。
3. なぜマンション関係法が大幅に改正されたの?
今回の改正の大きな背景には、マンションの「二つの老い」があります。
一つ目は、建物の老朽化です。
外壁、屋上防水、エレベーター、給排水管などは、築年数の経過とともに修繕や交換が必要になります。
二つ目は、区分所有者や居住者の高齢化です。
所有者が高齢になると、総会への出席が難しくなったり、
相続後に名義変更がされないままになったりすることがあります。
また、海外へ移住や、投資目的で購入している所有者、長期間連絡が取れない所有者などがいるマンションでは、
総会の決議に必要な人数を確保できないことがあります。
これまでの区分所有法では、管理規約を変更したり、共用部分に大きな工事を行ったりする時、
マンションの所有者全体を基準にして、一定数以上の賛成を集める必要がありました。
そのため、所有者が不明または無関心で議決権を行使しない場合、
その人の分が実質的に反対票と同じように扱われ、必要な工事や規約変更が進まないことがありました。
今回の改正では、こうした問題を減らし、連絡が取れない所有者や総会に参加しない所有者がいる場合でも、
マンションの修繕や管理、将来の建て替えなどを進めやすくすることが目的とされています。

改正ポイント①
今回の改正で、管理組合の運営に大きく影響するのが、総会における特別決議の見直しです。
管理規約の変更や共用部分の重要な変更には、
通常の決議より多くの賛成を必要とする特別決議が使われます。
改正前は、原則として区分所有者総数と議決権総数のそれぞれ4分の3以上の賛成が必要でした。
改正後は、区分所有権の処分を伴う決議などを除き、
総会に出席した区分所有者と、その議決権のそれぞれ4分の3以上で決議できるようになりました。
例えば、区分所有者が10人いるマンションで、
6人が総会に出席し、そのうち5人が賛成した場合を考えます。
改正前は、全区分所有者10人の4分の3以上、つまり原則8人以上の賛成が必要でした。
改正後は、出席者6人の4分の3以上となるため、5人の賛成で要件を満たす可能性があります。
ただし、少人数だけで重要事項を決定できないよう、特別決議を行う総会には、
区分所有者総数と議決権総数のそれぞれ過半数が出席するという定足数が設けられています。
つまり、決議は進めやすくなりましたが、総会自体に一定数以上が参加する必要があります。
改正ポイント②
マンションでは、共用部分を大きく変更する工事について、
これまで原則として4分の3以上の賛成が必要でした。
しかし、高経年マンションでは、
* 耐震補強
* エレベーターの新設
* 既存エレベーターの延長
* バリアフリー化
* 危険な外壁の改修
* 腐食した給排水管の更新
など、安全性や生活のしやすさに関係する工事が必要になることがあります。
今回の改正では、耐震性や防火安全性の不足、外壁落下のおそれ、衛生上有害となるおそれなどがある場合や、
バリアフリー化のために必要な場合について、
共用部分の変更決議の要件が4分の3以上から3分の2以上へ緩和されました。
高齢者が多いマンションでエレベーターを設置したい場合や、
耐震性に問題があるマンションで補強工事を行いたい場合に、従来より合意形成を進めやすくなると考えられます。
ただし、決議要件が下がったからといって、工事費や住民負担の問題がなくなるわけではありません。
修繕積立金で不足する場合は、一時金の徴収や借入れが必要になる可能性があります。
改正ポイント③
マンションでは、登記名義人が亡くなっていて相続登記がされていない場合や、
所有者の住所が分からない場合があります。
所有者と連絡が取れないと、
管理費の請求、漏水への対応、総会通知の送付、売却や建て替えの決議などに支障が出ます。
今回の改正では、裁判所が関与する次のような管理制度が新設されました。
・所有者不明専有部分管理制度
・管理不全専有部分管理制度
・管理不全共用部分管理制度
所有者不明専有部分管理制度では、
区分所有者を知ることができない、または所在を知ることができない専有部分について、
裁判所が管理人を選任できるようになります。
改正法では、所有者不明専有部分管理命令などの規定が新設されています。
これにより、連絡が取れない所有者や放置された住戸が原因で、
マンション全体の管理が止まってしまう問題への対応が期待されます。
改正ポイント④
マンションの区分所有者が海外に住んでいる場合、
管理費の支払い連絡がつかない、漏水などの緊急時に対応できないといった問題が起こることがあります。
改正区分所有法では、日本国内に住所や居所を持たない区分所有者が、
国内管理人を選任できる制度が設けられました。
国土交通省の改正標準管理規約では、
海外居住者に対し、国内管理人を選任して管理組合へ届け出る規定例が示されています。
国内管理人には、
総会通知の受領、議決権の行使、管理費・修繕積立金の支払い、専有部分の保存行為などの権限を委任できます。
海外投資家が所有するマンションや、転勤・移住により所有者が海外へ移るケースでは、
管理組合との連絡窓口を明確にしやすくなります。
改正ポイント⑤
マンションでは、一つの住戸内で発生した問題が、共用部分やほかの住戸へ影響することがあります。
例えば、専有部分内の給水管から漏水し、床下の構造部分や下の階へ被害が広がるケースです。
これまでの標準管理規約でも、
共用部分の管理に必要な範囲で専有部分への立入りを求めることはできました。
今回の改正では、立入りだけでなく、
共用部分などを守るために必要な保存行為の実施を求められることが明確になりました。
正当な理由なく立入りや保存行為を拒否し、
その結果として損害が発生した場合には、損害賠償責任を負う可能性があります。
また、災害や事故などの緊急時には、
理事長などが専有部分へ立ち入り、必要な保存行為を行える規定例も示されています。
ただし、管理組合がいつでも自由に住戸へ立ち入れるという意味ではありません。
必要性や緊急性、管理規約の内容、プライバシーへの配慮などを踏まえて対応する必要があります。
改正ポイント⑥
老朽化したマンションへの対応というと、
以前は大規模修繕を続けるか、建て替えるかという選択肢が中心でした。
しかし、建て替えには多額の費用がかかり、
容積率に余裕がないマンションでは、建て替え後に増える住戸を売却して費用を補うことが難しい場合があります。
今回の改正では、マンションの再生方法として、次の選択肢が整備されました。
* 建て替え
* 建物と敷地の一括売却
* 建物を取り壊して敷地を売却
* 建物の取壊し
* 一棟リノベーションに相当する更新
これらの再生方法について、
原則として区分所有者と議決権の各5分の4以上の多数決で実施できる制度が設けられました。
さらに、耐震性不足など、マンション再生の必要性が高い客観的な事情がある場合は、
決議要件が5分の4から4分の3へ緩和されます。
政令で指定された災害による被災マンションでは、一定の場合に3分の2まで緩和される仕組みも示されています。
◯ 一棟リノベーションとは?
一棟リノベーションは、建物の構造部分を活用しながら、全住戸や共用部分を大規模に改修する方法です。
建て替えと比べて既存の建物を活用できる可能性がありますが、
工事中の仮住まい、費用負担、権利調整などが必要になります。
マンションの状態や立地によっては、建て替えより現実的な再生方法になることがあります。
10. マンション標準管理規約も改正されました
区分所有法の改正に合わせて、
国土交通省は2025年10月17日にマンション標準管理規約を改正しました。
マンション標準管理規約は法律そのものではなく、各マンションが管理規約を作成・変更する際のひな形です。
今回の主な見直しには、次のような内容があります。
* 特別決議を出席者基準に変更
* 総会の定足数を見直し
* 耐震・バリアフリー工事の決議要件を見直し
* 国内管理人制度を追加
* 専有部分への立入り・保存行為を整備
* マンション再生決議の規定を追加
* 防災関係業務を明確化
* 管理組合役員などの本人確認に関する注意を追加
管理組合では、現在の規約と改正標準管理規約を比較し、必要な変更を検討することが大切です。
11. マンションの購入・売却にも法改正は影響する?
今回の改正は、マンションを現在所有している人だけでなく、これから購入・売却する人にも関係します。
中古マンションを購入する場合は、
室内や価格だけでなく、管理組合の運営状況を確認することが重要です。
購入前には、次の資料を確認しましょう。
* 管理規約
* 使用細則
* 長期修繕計画
* 総会議事録
* 修繕積立金の残高
* 管理費等の滞納状況
* 大規模修繕の履歴
* 管理規約の改正状況
* 建て替えや再生に関する検討状況
管理規約が改正法へ対応しているかどうかだけで、
直ちにマンションの良し悪しが決まるわけではありません。
しかし、法改正の内容を理解し、必要な規約変更や修繕計画の見直しを進めている管理組合は、
管理への意識が高いと判断する材料の一つになります。
マンションを売却する場合も、最新の管理規約や総会議事録を準備し、
購入希望者へ管理状況を説明できるようにしておくことが大切です。
【 まとめ 】
2026年4月1日に施行された改正区分所有法では、
老朽化マンションの管理と再生を進めやすくするため、総会や決議に関するルールが大きく見直されました。
主な改正ポイントは次のとおりです。
* 特別決議を原則として総会出席者基準で判断する
* 特別決議を行う総会に定足数を設ける
* 耐震改修やバリアフリー工事の決議要件を緩和する
* 所有者不明・管理不全住戸の管理制度を設ける
* 海外居住者の国内管理人制度を整備する
* 専有部分への立入りや保存行為を明確にする
* 建て替え以外の売却・取壊し・更新を選択しやすくする
* マンション標準管理規約を改正する
今回の改正により、必要な修繕やマンション再生の話し合いは進めやすくなりました。
しかし、法律が変わっただけで、
老朽化や修繕積立金不足、所有者間の意見の違いが自動的に解決するわけではありません。
マンション所有者は、管理組合から届く総会資料を確認し、
管理規約、長期修繕計画、修繕積立金、将来の再生方針について関心を持つことが大切です。
また、中古マンションを購入・売却する場合も、室内や価格だけでなく、
管理組合が法改正へどのように対応しているかを確認しましょう。
マンションは一つの建物を多くの人で所有する不動産です。
自分の部屋だけでなく、建物全体をどのように管理し、次の世代へ引き継ぐかを考えることが、
マンションの住みやすさと資産価値を守ることにつながります。
